【リーダイ】「おめでとうございます、当選しました」突然リーダーズ・ダイジェストから手紙(DM)が届きました。


あれはまだ私がこの世に生を受けてわずかに10年が経過しただけのある日のことです。私あてに届く郵便物と言えば、級友とやり取りをはじめたばかりの年賀状以外は、祖父母から届く時候の挨拶だけだったあの頃、唐突に私の名前が書かれた封書が届いたのです。

初めての経験に興奮しながら封を開けると、白い紙に印刷された手紙と、金色の型押しで彩られたなにやら高級感のあるカード、茶色の革表紙の書籍を紹介したカラーの印刷物が入っていました。

まるでシンデレラが受け取った舞踏会の招待状のように、初めて手にする企業からの手紙を恭しく読んでみると、どうやらとんでもない物に当選している模様。それまでくじに当たる経験なども無かった私は有頂天になって母親を呼び、とにかくすぐにこれを申し込んで欲しいと懇願しました。

数多の日本人の中から、山口県の田舎町に住む10歳の少年が選ばれることは、まさに奇跡的な幸運だと感じたものです。そしてこのラッキーボーイが手に入れたのは、茶色い革表紙(革風の紙ですが)の百科事典。正しくは、雑誌リーダーズ・ダイジェストを一年間購読することと引き換えに、一冊の茶色い本を無料で手に入れる資格でした。母親は当然この意味を理解しており、無駄遣いを嫌い節約を旨とする彼女がなぜ許してくれたのか。恐らく成績のあまり良くない息子が少しでも読書に興味を持ってくれるのならそれでも良いか、とでも思ったのでしょう。

さて、一月ほど経ったのでしょうか、あの幸運な出来事をすっかり忘れていた私の元に茶色い本と一冊目のリーダーズ・ダイジェストが届きました。インビテーションを受け取ったあの日とは比べ物になりませんが、それでも多少は高揚感に包まれながら届いた荷物を開梱し、二冊の書籍を取り出してパラパラと中身を検分してみました。

「だめだ、さっぱりわからない」

大人向けに作られているため読めない漢字も多く、何よりも10歳の小僧が興味を持てるような記事がなかったのです。マンガはおろか、写真や挿絵も最小限にとどめてあり、高速でページを繰る手が止まるのは、途中の広告だけというありさまでした。

それから毎月届けられるリーダーズ・ダイジェスト、初めのうちはそれでも中をパラパラと見ていましたが、やがて表紙を開きもせずに本棚に並べるようになりました。勉強机の正面にズラッと並べられたリーダーズ・ダイジェスト。その背表紙を見ると重苦しい後ろめたさに包まれてしまい、できるだけ意識の外に置くようにしたものでした。 

そんなほろ苦い記憶もすっかり癒えて中学生になったある日、放課後集まった悪友の家で彼の兄さんが隠し持っていたアメリカ版のプレイボーイ誌を手に取った時、その紙の薄さや印刷の荒さに、忘れていたはずのリーダーズ・ダイジェストの記憶が呼び起こされたことは内緒です。

リーダーズダイジェスト日本版は1946年6月に創刊された。誌名は『リーダーズ ダイジェスト』だが、「リーダイ」の略称で親しまれた。当初はほとんど全体がアメリカ版の翻訳だったが、1970年代中頃から日本語版オリジナルの記事が3割ほどになっていた。通信販売の広告が非常に多い雑誌でもあった。1986年に休刊となった。Wikipediaより


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